昔々(むかしむかし)、ペルシア(ぺるしあ)に、カシム(かしむ)とアリババ(ありばば)という兄弟(きょうだい)がおりまし" />
更新時間:2021-12-11 03:55:38作者:admin2
01 アリババと四十人(よんじゅうにん)の盜賊(とうぞく)
昔々(むかしむかし)、ペルシア(ぺるしあ)に、カシム(かしむ)とアリババ(ありばば)という兄弟(きょうだい)がおりました。(兄(あに)のカシム(かしむ)はお金持(かねも)ちで、弟(おとうと)のアリババ(ありばば)は貧乏な樵(きこり)でした。)
ある日(ひ)アリババ(ありばば)がロバ(ろば)を連(つ)れて森(もり)へ行(い)くと、馬(うま)の足音(あしおと)が聞(き)こえてきました。
見(み)ると、馬(うま)に乗った男(おとこ)たちが近(ちか)づいてきます。
(恐(おそ)ろしい顏(かお)をしている。きっと。悪(わる)いやつらに違(ちが)いない。)
アリババ(ありばば)はロバ(ろば)を連(つ)れて、慌(あわ)てて物陰(ものかげ)に隠(かく)れました。
そっと數(かぞ)えると、男(おとこ)たちは四十人(よんじゅうにん)います。
やがて親方(おやがた)が、巖(いわ)の前(まえ)に立(た)って言(い)いました。
「開(ひら)け、ゴマ(ごま)!」
すると、巖(いわ)がス(す)ーと開(ひら)いたのです。
男(おとこ)たちは洞穴(ほらあな)の中(なか)に入(はい)ると、持(も)っていた荷物(にもつ)を置(お)いて、また出(で)てきました。
「閉(と)じろ、ゴマ(ごま)!」
親方(おやかた)が叫(さけ)ぶと、巖(いわ)はス(す)ーと、閉(と)じました。
男(おとこ)たちは、馬(うま)に乗(の)ると走(はし)り去(さ)っていきました。
「これはすごい、魔法(まほう)の呪文(じゅもん)で巖(いわ)が動(うご)くんだ。」
アリババ(ありばば)は、早速(さっそく)まねをしてみました。
「開(ひら)け、ゴマ(ごま)!」
さっきと同(おな)じように、巖(いわ)がスーと、開きました。
洞穴(ほらあな)に入(はい)ったアリババ(ありばば)は、目(め)を見張(みは)りました。
「これはすごい!寶(たから)の山(やま)だ!そうか、ここは盜賊(とうぞく)たちの寶(たから)の隠(かく)し場所(ばしょ)なんだ。」
アリババは金貨(きんか)をロバ(ろば)に積(つ)むと、急(いそ)いで家(いえ)に帰(かえ)りました。
その夜(よる)、アリババ(ありばば)は、カシム(かしむ)の家(いえ)にマス(ます)を借(か)りに行(い)きました。
「貧乏人(びんぼうじん)が、何(なに)を量(はか)るのだろう?」
そう思(おも)ったカシム(かしむ)は、マス(ます)の隅(すみ)っこに、こっそりと糊(のり)を涂(ぬ)っておきました。
そして、アリババ(ありばば)から返ってきたマスには、糊(のり)にくっついた金貨(きんか)が一枚張(いちまいば)り付(つ)いていたのです。
カシム(かしむ)は、すぐにアリババ(ありばば)の家(いえ)に行(い)きました。
「おい、この金貨(きんか)をどこで手(て)に入(い)れたんだ!言(い)わないと、役人(やくにん)に言(い)い付(つ)けるぞ!」
しかたなく、アリババ(ありばば)は、寶(たから)のありかを教(おし)えました。
(これはいいことを聞(き)いた。よし、その寶(たから)を獨(ひと)り占(じ)めにしてやろう。)
カシム(かしむ)はロバ(ろば)を引(ひ)いて巖山(いわやま)へ出掛(でか)けていくと、教(おし)えられたとおりに、「開(ひら)け、ゴマ(ごま)!」と、言(い)いました。
ス(す)ーと開(ひら)いた巖(いわ)の中(なか)に入(はい)っていくと、そこには目(め)がくらみそうなほどの寶(たから)が山積(やまづ)みにされています。
「そうだ、巖(いわ)の扉(とびら)を閉(と)じてから、ゆっくりと袋(ふくろ)に詰(つ)め込(こ)もう。」
カシム(かしむ)は巖(いわ)の前(まえ)で、
「閉(と)じろ、ゴマ(ごま)!」
と、言(い)うと、巖(いわ)はス(す)ーと閉(と)じました。「よしよし、思(おも)う存分(ぞんぶん)、寶(たから)を詰(つ)め込(こ)むぞ。」
カシム(かしむ)は夢中(むちゅう)で、寶(たから)を袋(ふくろ)に詰(つ)め込(こ)みました。
ところが大変(たいへん)なことに、外(そと)に出(で)ようと巖(いわ)の前(まえ)に立(た)ったのですが、出(で)るためのお呪(まじな)いを忘(わす)れてしまったのです。
「開(ひら)け、豆(まめ)…(???)開(ひら)け、麥(むぎ)…(???)開(ひら)け、とうもろこし…(???)開(ひら)け、かぼちゃ…」(???」)
オロオロ(おろおろ)しているうちに、盜賊(とうぞく)たちが戻(もど)ってきてしまいました。
「こそドロ(どろ)目(め)、盜賊(とうぞく)からドロボウ(どろぼう)するとはとんでもないやつだ!」
カシム(かしむ)は、怒(おこ)った盜賊(とうぞく)たちに殺(ころ)されてしまいました。
04 一枚の羽
昔々のある日、お日様が西に沈んで、日が暮れました。鳥小屋の鶏が、みんな止まり木に止まりました。そして、目を積もりました、明日の朝まで、おやすみなさい。でも、すぐには眠れません、一羽の雌鳥は嘴で羽をつついていました。この雌鳥は毎日きちんと卵を產む、とてもいい雌鳥でした。ただ。ときどき面白いことをいいでは、みんなを笑わせる癖がありました。羽をつついているうち、白い羽が一枚、ポロリと下に落ちました。あら、「羽が一枚落ちたわ」っと、雌鳥が言いました。「でもいいわ、私は羽が落ちると、それだけ體がすらりとして、きれいになるんですもの」。雌鳥がみんなが笑わせようと思って、言ったのです。けれど、ほかの鳥たちは游び疲れで、みんなすやすやと眠ってしまいました。ところが、近くの木の枝に、目玉をくるくるさせたフクロウがとまっていました。夜になって、黒くなればなるほど、目がよく見えてくるフクロウです。「私は聞きましたよ、この耳で、耳が落ちでしまわないうちは、できるだけたくさん聞いておかなければなりませんからね」、フクロウは鳩小屋の鳩に話しました。「お聞きなさい、鳥小屋の雌鳥さんが綺麗になりたいと言って、自分の羽を抜いたんだそうですよう」。「ブグ、ブグ」、鳩が隣のアヒルに話ましだ。「アヒルさん、アヒルさん、などう驚いたことに、鶏さんが綺麗になる競爭しで、羽をみんなむしりとったんですって。」「ガー、ガー」アヒルが驚いて鳴きました。「大変なことをするもんだ、はねを毟ってしまでは風を引いて、熱を出すに決まっている」。アヒルの軒下に蝙蝠が泊まっていました。蝙蝠がこの話を聞いて、びっくりしました。「ひどい話だ、こんな話をたまってはいけない、みんなに知らせなくっちゃ。」ヒラヒラヒラっと、蝙蝠が月夜の空へ飛んでいきました。あくる朝になりました、「ジュン、ジュン、ジュン」朝早くから鶏小屋の前で、雀が喧しく騒ぎました。鶏だちは変に思って、「もしもし、雀さん、どうかしたのですが」「これは驚いた」、「ジュン、ジュン、ジュン」っと、雀が鳴きました「どうしたところではありませんよ、雌鳥さんが羽を抜いて、五羽もなくなっではありませんか」「あら、まあ。それはのお気の毒ねえ、いったいどうしたんでしょう、そんなに羽を抜いて、五羽もなくなるなんで、驚きましたわ」っと、一羽の雌鳥がいいましだ。なんとその雌鳥は一番始めに羽をとした雌鳥だったではありませんが。たっだ一枚羽ををおとしたことが、御しまいには、雌鳥がごわもなくなったと途中から話がひどく変わってしまったのです。「どこの雌鳥さんでしょうね、ここの雌鳥さんではないのですか」。「いいえ、ここではありませんよう」。「可笑しいなあ、何処だろう」本當に何処でしょうね、可笑しいなあ。風が吹いて、夕べ雌鳥が落とした一枚の羽をヒラヒラとどこかへ持っていきました。
06お茶のポット
「こんにちは、私はお茶のポットです。私は陶器でできていますのよ。注ぎ口は細くて長くて素敵でしょう。いつでしたか、どなたかがバレリーなの腕のようと、ほめてくださいましたわ。取っ手の幅の広さはどう思いまして?なんと申しましても、陶器は私のように上品で、しかもおしゃれでなくては。なにしろわたしは、一流の職人さんが、それはそれは丁寧に作ってくださいましたのよ。」
お屋敷の臺所で、お茶のポットはいつも自慢していました。
でも、聞かされるクリーム入れや砂糖入れは、ほめるよりも、もっと別のことをよくいいました。
「とことで、ポットさんの蓋はどうされました?」
そのことを言われると、ポットは黙ってしまいます。
蓋は前に一度壊されて、つぎはぎにされ、継ぎ目はあるのです。
「そうね。誰でも悪いところに目がいくものよね。でもなんと言われても、わたしはテーブルの上の女王よ。だって、のどが渇いている人間を助けてあげることができるんですもの。この注ぎ口が女王の證拠よ。クリーム入れも砂糖入れも、いってみれば家來じゃないの。」
そんなある日のこと。
食事のときにだれかがポットを持ち上げた拍子に、床に落としてしまったのです。
ポットは床で音を立てて、粉々になってしまいました。
「それから私は、貧しい家の人にもらわれて行きましたの。そこで土を入れられ、球根を埋められましたわ。私は嬉しく思いました。なぜって球根は、私の體の中でグングンと元気に育ち、芽を出したのです。そして、朝を、迎えるたびに大きくなり、ある朝見事な花が咲きましたの。花は娘のようなもの。まあ、お禮は申してくれませんでしたが、私は幸福でしたわ。家のひとたちは花を見て、その美しさをほめてくれました。だれかを生かすために自分の命を使うって、うれしいことです。そのとき初めてそう思いました。でも、家の人たちは『こんなきれいな花は、もっと素敵な植木缽に植ええたほうがいいね』と、花を連れていき、私を庭の隅に放り投げましたの。でも、私をかわいそうなどと思わないでくださいね。ええ、私は思い出がたくさんあるのですから。これだけは、だれにも壊したり、放り投げたりできませんのよ。」
07 親指姫(おやゆびひめ)
昔々、一人ぼっちの女の人が、魔法使(まほうつか)いに頼みました。
「私には子供がいません。小さくてもかまわないので、かわいい女の子がほしいのです。」
すると魔法使いは、種(たね)を一粒(ひとつぶ)くれました。
おんなのひとが種を撒(ま)くと、たちまち芽(め)が出(で)て、つぼみが一つ膨(ふく)らみました。
「まあ、なんてきれいなんでしょう。」
女の人が思わずキスをすると、つぼみが開(ひら)きました。
そしてなんと、そのつぼみのなかに、小さな女の子が座っていたのです。
「はじめまして。あなたの名前は、親指姫よ。」
女の人は、親指姫を大切に育てました。
親指姫は、お皿(さら)の海で泳(およ)ぎます。
葉(は)っぱの船を漕(こ)ぎながら、きれいな聲で歌いました。
夜になると、胡桃(くるみ)の殼のベッドで眠(ねむ)ります。
お布団(ふとん)は、花弁(はなびら)でした。
さて、ある晩(ばん)のことです。
ヒキガエルのお母さんが、寢ている親指姫を見付けました。
「息子のお嫁さんにちょうどいいわ。ゲロゲロ。」
ヒキガエルのお母さんは親指姫を連れていくと、水連(すいれん)の葉っぱに乗(の)せました。
「さあ、起きるんだよ。今日からお前は私の息子のお嫁さんだよ。そしてこの沼(ぬま)がお前の家さ。息子を連れてくるから、ここにいるんだよ。ゲロゲロ。」
ヒキガエルのお母さんは、そういってどこかへ行ってしまいました。
「ヒキガエルのお嫁さんになるのはいや。ドロの沼も嫌いだわ。」
親指姫は泣きだしました。
「かわいそうに。逃がしてやろうよ。」
近くにいた魚たちが、睡蓮の莖(くき)を噛(か)み切(き)りました。
「ありがとう。魚さん。」
睡蓮の葉っぱは、流れに流れていきます。
親指姫は、飛んでいた蝶蝶(ちょうちょう)を葉っぱに結(むす)びつけました。
蝶蝶はヒラヒラ飛んで、葉っぱはどんどん川を下(くだ)っていきます。
「おや、珍しい蟲がいるぞ。」
コガメムシガ親指姫を捕(つか)まえて、森の奧へ連れて行きましたが、そのままどこかへ行ってしまいました。
森の奧で、親指姫は一人ぼっちで暮らしました。
花の蜜(みつ)を食べて、草にたまった露(つゆ)を飲んで、葉っぱに包(くる)まって眠ります。
やがて冬が來て、空から雪が降ってきました。
「ああ、なんて寒いのかしら。。」
震(ふる)えながら歩いていた親指姫は、野鼠(のねずみ)の家を見付(みつ)けました。
「おやおや、寒い中(なか)をかわいそうに。さあお入り。中は暖かいし、食べ物もたくさんあるよ。」
親指姫は、野鼠と一緒に暮らすことになりました。
さて、野鼠の家のさらに地面(じめん)の奧には、お金持ちのモグラが住んでいました。
「なんてかわいい人だろう。」
親指姫が気に入(い)ったモグラは、毎日游びに來ます。
ある日のこと、親指姫は倒れているツバメを見付けました。
やさしい親指姫は、毎日ツバメの世話をしました。
「どうか元気になって、もう一度歌って、ツバメさん。私は、あなたの歌が大好きよ。」
春になると、ツバメはすっかり元気になって、親指姫を誘いました。
「一緒に、南の國へ行きましょう。南の國は、とってもいいところですよ。」
「ありがとう。でも、いけないわ。」
「どうして?」
「だって、私がいなくなったら、お世話になったのねずものおばあさんがさびしがります。」
「そうですか。では、さようなら。」
ツバメは、親指姫にお禮を言うと、南の國へ飛んで行きました。
夏が來ると、野鼠が言いました。
「よかったわね。お金持ちのモグラさんが、あなたをお嫁にほしいんですって。秋になったら、モグラさんと結婚するんですよ。」
親指姫は、びっくりしました。
モグラと結婚したら、ずっと地面の底(そこ)で暮らさなければなりません。
モグラは、お日さまも花も大きらいなのです。
夏の終わりの日、親指姫は野原(のはら)で言いました。
「さよなら、お日さま。さようなら。お花さんたち。私は地面の底に行って、もう二度とあなたたちに會えません。」
親指姫は悲しくなて、泣き出しました。
その時、空の上から明(あか)るい聲が聞こえました。
「お迎えにきましたよ。」
あの時のツバメが飛んできたのです。
「さあ、今度こそ一緒に行きましょう。」
「ええ、行きましょう。」
ツバメは親指姫を背中(せなか)に乗(の)せえ、飛んで行きました。
南へ南へ何日も飛んで、著(つ)いたのは花の國です。
ツバメは花の上に親指姫を降ろしました。
「ようこそ、かわいい人。」
聲に振り替えると、親指姫と同じくらいの男の子が立っていました。
花の國の王子さまです。
「さあ、これをどうぞ。」
王子さまは、親指姫の背中に羽(はね)をつけてくれました。
それから親指姫は、花の國の王子と結婚ました。
二人は花から花へと飛び回りながら、幸せに暮らしました。
8くさったリンゴ
昔々、あるところに、それはそれは仲のいいお百姓夫婦がいました。
二人の家は、屋根に苔や草が生えていて、窓はいつも開けっぱなしです。
庭には番犬が一匹いて、池にはアヒルが泳いでいます。
季節の花が門を飾り、リンゴの木も植わっていました。
「ねえ、お父さん、今日は町で市がたつんだって。うちの馬も何かと取り替えてきてくれないかい。あの馬は草を食べて小屋にいるだけだからね。」
「それはいいけど、なんと取り替える?」
お父さんが聞くと、お母さんはネクタイを出して來て、それをお父さんの首に結びながら,ニコニコ顏で言いました。
「きまってるじゃありませんか。それはお父さんに任せるって。だって、うちのお父さんのすることに、いつも間違いはないんだから。」
「そうかね、そんなら任せてもらおう。」
と、お父さんは馬に乗って、パッカパッカ出掛けていきました。
「おや?」
向こうからメスウシを引いてくる人がいます。
「ありゃ、見事なメスウシだ。きっといい牛乳がとれるぞ。」
お父さんはそう思うと、その人に馬とメスウシを取り替えっこしてほしいと頼みました。
「ああいいよ。」
その人はお父さんにメスウシを渡し、馬に乗ってパッカパッカ行ってしまいました。
お父さんはメスウシを引いて帰ろうかなと思いましたが、せっかくだから、市を見に行くことにしました。
すると、のんびりと羊を連れた男に出會いました。
「こりゃ毛并みのいい羊だ。」
お父さんは,メスウシと羊を取り替えようと聲をかけました。
羊の持ち主は、大喜びです。
なにしろ,ウシは羊の何倍も高いのですから。
お父さんが羊をもらってのんびり行くと、畑の方から大きなガチョウを抱いた男がきました。
「あんなガチョウがうちの池に泳いでいたら、ちょっと鼻が高いなあ。」
そう思うと、お父さんは早速、羊とガチョウの取り替えっこをしようと言いました。
ガチョウを抱いた男は、大喜びです。
なにしろ羊は、ガチョウの何倍も高いのですから。
お父さんがガチョウを抱いて町に近くまで行くと、メンドリをひもでゆわえている人に會いました。
「メンドリはエサはいらねえし,タマゴも產む。お母さんもきっと助かるぞ。」
お父さんは、ガチョウとメンドリを取り替えないかと、もちかけました。
メンドリの持ち主は、大喜びです。
なにしろガチョウは、メンドリの何倍も高いのですから。
「やれやれ、大仕事だったわい。」
お父さんはメンドリを連れて、一休みすることにしました。
お父さんが、お酒やパンを食べさせてくれる店に入ろうとすると、大きな袋を持った男にぶつかりました。
「いや、すまん。ところでその袋にゃ、何が入っているのかね?甘いにおいがするけど。」
「ああ、これはいたんだリンゴがどっさりさ。豚にやろうと思ってね。」
それを聞くと、お父さんはいつだったか、お母さんがリンゴの木を見ながら、こんなことを言ったのを思い出しました。
「ああ、いっぱいリンゴがとれて、食べきれなくてさ、いたんでしまうくらい、うちに置いとけたら。一度でいいから、そんなぜいたくな思いをしてみたいねえ。」
お父さんは男に、メンドリといたいんだリンゴをぜひ取り替えてほしいと頼みました。
「まあ、こっちはそれでもかまわないが….」
男は首をかしげながら、リンゴの袋を渡しました。
なにしろメンドリは、リンゴの何倍も高いのですから。
お父さんはリンゴの袋を持って店に入り、お酒を飲み、パンを食べました。
ところがうっかりしていて、リンゴの袋を暖爐のそばに置いたので、店中に焼けたリンゴのにおいが広がりました。
そのにおいで、そばにいた大金持ちの男が聲をかけてきました。
「気の毒に。リンゴを損しましたね。」
「いやあ、いいんだ、いいんだ。」
お父さんは払って、大金持ちに、馬がいたんだリンゴに変わった、取り替えっこの話を聞かせました。
話を聞くと、大金持ちに男は目を丸くました。
「それは、奧さんに怒られますよ。」
お父さんは、首を大きく橫にふりました。
「いやあ、うちのかみさんはおれにキスするよ。」
「まさか!ほんとにキスしたら、仆はあなたにタルいっぱいの金貨をあげますよ。」
大金持ちの男は、そう約束しました。
お父さんは、大金持ちの男と一緒に家に帰りました。
「お帰り。」
と、出迎えてくれたお母さんに、お父さんは大金持ちの男の前で話し始めました。
「馬はね、まずメスウシと取り替えたよ。」
「へえ、そりゃお父さん、牛乳がとれてありがたいねえ。」
「だがな、メスウシを羊に取り替えたのさ。」
「ますますいいね。セーターが編めるよ。」
「けど、羊をガチョウと取り替えた。」
「ガチョウはお祭りに食べられるよ。おいしそうだね。」
「でも、ガチョウはメンドリと換えちまった。」
「ああ、運がいい。タマゴを毎日食べられるなんて」
「そのメンドリをいたんだリンゴと取り替えて、ほら、もどって來たとこだ。」
「わあ、幸せだ。だってさ、お父さん、聞いとくれよ。あたしはさっきネギを貸してもらいにお向かいに行ったんだよ。そしたら奧さんが、『うちにはいたんだリンゴ一つありません』って斷ったのさ。でも、どう?今のあたしはそのいたんだリンゴを持っている。アハハハ,愉快だねえ。こんないい気分は初めてだ。やっばり、お父さんのすることに間違いはないねえ。」
お母さんはそう言うと、うれしそうにお父さんのほっぺたにキスをしました。
それを見た大金持ちの男は、「素晴らしい!なんて幸せな夫婦なんだ!」
そう言ってお父さんとお母さんに、約束どおりタルいっぱいの金貨をプレゼントしました。
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1、4、6、7、8五篇。